近年、発達障害をもつ人は増え続けています。
発達障害の診断基準が確立され(DsM-5)、いわば「病名がついたことによる増加」ともいえますが、ほかの障害と比較して急増が著しく、要因と考えられる様々な問題も明らかになってきており、発達障害「そのもの」が増えていることも、まぎれもない事実です。
本書は、薬に頼らず、栄養素を用いた「オーソモレキュラー療法」を行うクリニックの第一人者である溝口徹先生が書かれたものであり『発達障害の方のための最新栄養医学書』です。
発達障害の方には共通する”栄養トラブル”があることが分かっており、それは、そもそもの栄養を吸収しにくい本人の体質や、ほかの様々な影響によって引き起こされていることが多いのです。
母親が悪い、育て方が原因というわけではありません。
しかし、発達障害の方にとって「正しい食事」「必要な栄養素を摂取すること」は、症状改善の大きな1歩となります。
- 落ち着きのなさが「鉄分」の摂取で改善した
- 「糖質」コントロールを行ってイライラが改善した
- 不注意、敏感すぎが「ビタミンB群」摂取で改善した
このように、困った症状の背景には栄養不足が存在していることが多く、発達障害の症状に合った「食べ物」「食べ方」があるのです。
私が本書を読んだのは、歳の離れた弟が「自閉症」と診断されたこと、また、親も発達障害を抱えており、何か力になれないかと思ったことがきっかけでした。
本書の内容が大変勉強になり、さっそく弟と母親に実践してもらったところ、かなり効果があったようでビックリしました。
オーソモレキュラー療法は「症状」に直接アプローチする栄養療法
発達障害にさまざまな診断名や症状があるように、治療内容やアプローチ方法もさまざまです。
オーソモレキュラー療法で多くの実績が出ているのは、患者さんの「診断名」よりも、その背景にある問題点を把握し、その時々の「症状(困りごと)」に対してアプローチを行うためです。
なぜ「診断名」より「症状」が重要なのか
発達障害の難しいところは、個々の特性が理解されにくいことです。
その原因として、以下のようなことが考えられています。
- 客観的な指標が乏しい
→数値で測定できたり画像で診断できたりするものではないため、医師によって診断が異なることも多く、見立て違いの診断を受け不要な投薬を続けている人も少なくない。
- 成長に応じて特性が変わる
→小学校の時期を過ぎた発達障害のお子さんが中学生になると、生きずらさや人間関係でのトラブルで孤立し、不登校やいじめが起きたり、対人関係の困難さ、自己肯定感の低さが続いたりする。その結果、不安障害やうつ症状、イライラ感などの2次的な精神症状がみられることもあるが、これを一次症状と誤解され治療が長引く。
- さまざまな特性が重複していることが多い
→発達障害の専門家は、それぞれの分野(自閉症、ADHD、学習障害など)の専門家であり、重複していることが理解されないケースが多い。色々なタイプがあるのに、ひとくくりにされやすい。
子どものうちは、薬によって症状を軽減することができる場合もありますが、適切なアプローチが行われなければ、薬の増量や多剤併用となりかねません。
そのため、診断名にとらわれず、そのケース・その時期に最適な対応をしていくことが重要となります。
オーソモレキュラー療法とは何か
ひと言でいえば「食事の変更と、さらに必要な栄養素をサプリメントで補う治療法」です。
食事や栄養が、体だけではなく脳にも影響を与えているという考えのもと、薬に頼らず栄養素を用いたアプローチを行う治療法のことをオーソモレキュラー療法(分子整合栄養療法)といいます。
発達障害のなかの細かい診断や分類には、あまりこだわらず、その背景にある栄養や代謝の問題を個々の状態に応じて補正することが目的です。
発達障害に共通する”栄養トラブル”とは
栄養状態は、詳しい血液検査をすることで分かります。
発達障害のある方に血液検査を行うと、ある共通の”栄養トラブル”があるのだそうです。
それが以下の4つの栄養トラブルです。
①低血糖症
発達障害に血糖が深くかかわっているということを知って驚かれる方もいるのではないでしょうか。
「低血糖症」とは、血糖値の変動を調整するために関与しているさまざまなホルモンや、自律神経のトラブルによって起きる多くの症状の総称です。
海外では「血糖調節障害」と呼ばれ、うつなどをはじめとした多くの精神症状の原因になると認識されています。
低血糖のメカニズム
通常、糖質を吸収すると血糖値はゆるやかに上がり、その後上がった血糖を下げるためにインスリンが分泌され、血糖値がゆるやか低下し、血糖値は安定する。
ところが低血糖症の場合、食後の血糖値が急激に上がってしまうため、インスリンが大量に分泌されてしまい、逆に血糖値が下がりすぎてしまう。
すると今度は、下がった血糖値を上げようとするインスリン拮抗ホルモンが、またもや大量に分泌されて自律神経に乱れが生じ、心身に不調が生じる。
低血糖症が原因で起こる症状
- イライラ
- 疲労感
- 不安感、うつ症状
- 手のしびれや動悸
- 頭痛
- 筋肉のこわばり
- 睡眠障害、日中の眠気
- 集中力の欠如など
➁腸内トラブル
”自閉症と腸などの消化管障害との関連性”は古くからよく知られた事実であり、実際、自閉症児には、腸粘膜の炎症が起こっている場合が多いといわれています。
腸内トラブルのメカニズム
健康な腸粘膜には、タイトジャンクションといわれる細胞間の結合がしっかりしており、目の細かいザルのように小さなアミノ酸まで分解されたものだけを通すことが出来る。ところが腸の粘膜が炎症を起こし、ザルの目が粗くなると、十分に分解されていない大きな分子も通してしまう。これが抗原となって免疫が過剰に反応しアレルギーを発症する。
自閉症児に多い「リーキーガット症候群」は、まさにこのタイトジャンクションがゆるみ腸の粘膜の目が粗くなった状態で、以下のような弊害を引き起こします。
- 食べても食欲が抑制されなくなり、さらにインスリンの初期の分泌が低下するため食後に血糖値が急上昇しやすくなる
- 腸内細菌由来のLPSという炎症物質が全身に吸収されてしまい、腸だけでなく、肝臓、筋肉、脂肪細胞、自律神経系などあらゆる箇所で炎症が起こり、インスリン抵抗性が上がり血糖がコントロールできなくなる
- インスリン抵抗性が更新することでインスリンが過剰に分泌され、その結果として急激に血糖値が下がり低血糖症となる
以上のことから、腸は前項で述べた「血糖」とも深く関わっており、自閉症や発達障害の治療では、とにかく腸の改善が重要であるということが分かります。
腸のトラブルが原因で起こる症状
- 慢性的な疲労感
- 下痢や便秘
- 集中力の低下
- 頭痛
- 肌荒れ
- PMS(月経前症候群)
- 生理不順
- 不妊
- アトピー
- ぜんそく
- 鼻炎
③アレルギー
前述したように、腸が弱いとアレルギーを起こしやすくなります。
また、気づかぬうちにアレルギーを引き起こしていて、アレルギーが原因で腸が炎症を起こす→脳も炎症を起こすという負のスパイラルに陥ってしまうパターンが実に多いといいます。
※「脳腸相関」についても本書に分かりやすくメカニズムが記載されてあります。
要するに「脳と腸は密接に繋がっている」ということです。
そして、この気づかぬアレルギーの原因として近年注目されているのが「グルテン・カゼイン」です。
「グルテン」は、小麦などの穀物に含まれているたんぱく質の一種で、パンやケーキなどをふわふわと膨らませたり、モチモチ感を出したりするのに関係している成分です。小麦はもちろん「麦」とつく食品のほとんどすべての食品に含まれています。
「カゼイン」は、乳に含まれているたんぱく質で、牛乳やヨーグルト、チーズなどの乳製品に含まれています。
この「グルテン・カゼイン」が私たちの体に悪さをしており、それが発達障害にも関係していることが分かってきています。
「グルテン・カゼイン」が原因でアレルギーを発症するメカニズム
グルテンやカゼインは人の消化酵素では分解されにくい特徴を持っている。もともと、腸の粘膜が弱かったり、腸内環境が悪かったりした場合、完全に分解されないグルテンやカゼインが小腸にとどまって腸の粘膜に入り、腸の炎症を引き起こす。また、完全に分解されないグルテンやカゼインの一部(正確にいえばこれらのペプチド)が体内に吸収されることによって、異物と見なされ、アレルギー反応を起こす。
グルテンとカゼインの問題はそれだけではありません。
- 細胞の解毒能力が低下し、全身の細胞に毒性物質がたまりやすくなってしまう。
- モルヒネそっくりの成分が中毒症状を引き起こし、ハイになったりイライラしたりボーっとするなどの慢性的な症状を引き起こす。
(※これらについてもプロリンやオピオイドペプチド、システインの取り込みが阻害されることなど、詳しいメカニズムが記載されていますが、ここでは省略します)
世界五大医学雑誌『ランセット』で報告された「注意欠如・多動症の子どもと食べ物との関連性」の研究結果では、注意欠如・多動症の子どもに”アレルギー誘発性の低い食物”を選んだ除去食を与えたところ、注意欠如・多動症の患者の64%の症状が改善したと言います。
お気づきでしょうか?
ここで注目すべきは「普段よく食べているものが、実はアレルギーを誘発している可能性がある」ということです。
アレルギーにはいくつかのタイプがありますが、おおまかに以下の2つに分類できます。
- 「IgEアレルギー」すぐにアレルギー反応が出現する”即時型のアレルギー”
- 「IgGアレルギー」アレルギー反応が出るのが遅い”遅延型のアレルギー”
アレルギーと聞いて一般的に思い浮かべるのは、そばアレルギーや、花粉症、薬物アレルギーなどといった「IgEアレルギー」いわゆる”即時型アレルギー”のほうでしょう。
すぐに反応があらわれるので、本人も家族も何のアレルギーがあるかを把握していることがほとんどです。
しかし、発達障害において問題となるのは、2番目の「IgGアレルギー」のほうになります。
IgGアレルギー(遅延型アレルギー)のメカニズム
IgEアレルギー(即時型アレルギー)は、大量のヒスタミンが血管を拡張させたり血管から水分を出したりするため症状が直ぐに現れるのに対し、IgGアレルギー(遅延型アレルギー)は、抗原と結びついてもすぐに症状があらわれるわけではなく、IgGの複合体の補体(補佐役のようなもの)が活性化することでさまざまな反応がゆっくりと起きる。この反応の遅さが厄介で、何が抗原なのかわからず、知らず知らずに食べ続けてしまうことになる。特異な症状が出ない上に症状も多岐にわたるため本人や家族もアレルギーの自覚がないことが多い。
IgGアレルギーも血液検査で調べることが可能ですが、家庭でもある程度調べることができます。
特定の食品を食べたあとに”だるくなる、眠くなる、頭痛がする”といった症状が起きていたら、その食品がアレルゲンとなっている可能性が高いそうです。
グルテン・カゼインフリーの食事法については、最後の章の中で解説します。
④良質な「油」の不足
発達障害の”栄養トラブル”の最後に、症状を悪化させる「炎症」の問題があります。
発達障害の患者さんに腸内環境が悪い人が多いといことは前述しましたが、これはすなわち、脳も炎症を起こし、脳のトラブルにつながっていることになります。
そして、この炎症を促進する(または鎮める)ものとして、決め手は「油の摂り方」にあるというのです。
「脳」は、人間の体の中で脂質の含有量がずば抜けて高い部位にあたります。
(大きく分けると、脂質が60%、たんぱく質が40%)
そして発達障害の人には共通して”良質な油が不足している”傾向があるといいます。
炎症に関係する「油」には2種類ある。
- 炎症を鎮める「オメガ3系」・・・代表はαリノレン酸(亜麻仁油、エゴマ油、シソ油、魚油など)
- 炎症を促進する「オメガ6系」・・・代表はリノール酸(ベニバナ油、コーン油、大豆油など。いわゆるサラダ油やドレッシングに多く含まれる)
この「オメガ3系」と「オメガ6系」は真逆の働きをしており、この2つの脂肪酸がどのような構造で炎症を促進したり抑制したりするのか、本書中でかなり詳細に解説があります。
以下、簡潔にまとめました。
- 2つの脂肪酸は、必要な量を人体でつくることはできないため食材から摂取するしかない。積極的に摂りたいのは「オメガ3系」のほうだ。
- 2つの脂肪酸の摂り方として大切なのは「量」ではなく「比率」。
オメガ3系:オメガ6系の理想的な比率は1:1。 - 1:1で摂取することは意外と難しい。
なぜなら現代人の食生活は圧倒的にオメガ6系の油を摂取しているから。
「オメガ6系」の植物油は、身近な揚げ物や炒め物などによく使われており、菓子、パン、マヨネーズ、インスタントラーメンやファストフードなどにも大量に使われています。
「オメガ3系」のほうは、魚油などに含まれているため、アジやサバ、サンマなどの青魚を意識して摂る必要があります。
発達障害の特性別栄養チャート
発達障害の患者さんの”今、その時の状態”を評価するためのツールとして役立つのが、本書で紹介されている「発達障害の特性別栄養チャート」です。
※より詳細を把握したい方は、実際に本書を手に取って評価することをおススメします。図表付きの解説が分かりやすく、発達障害の特性(症状)12項目に点数をつけることでより正確に診断できるようになっています。
低血糖タイプ
- 睡眠
▢寝る前に何かを食べることが多い
▢途中で起きることが多い
▢夢をよく見る。
▢悪夢を見る。寝言が多い
▢歯ぎしりをする
▢日中の眠気 - 衝動性・キレる
▢怒りっぽい
▢おなかがすくとイライラしがち
▢イライラ感が甘いものでおさまる
▢午前中よりも午後や夜間にイライラする
★低血糖症タイプに必要な栄養素★
- ココナッツオイル
- ビタミンB群
- ナイアシン
ビタミンB群不足タイプ
- 不安・ネガティブ
▢「どうせ自分なんて」という思いが強い、自己肯定感が低い
▢その場面でもないのに、不安が繰り返し起こる
▢物事をポジティブに、楽観的に捉えられない
▢抑うつ感がある。うつ病といわれたことがある - 不注意
▢忘れ物が多い
▢ルーチンが身につかない
▢整理整頓ができない
▢特定のものに集中しすぎる傾向がある
▢冷たいといわれる、思われる(まわりに注意を払えないことがある)
▢車の運転でヒヤッとすることが多い - こだわり・過敏さ
▢決まった手順がずれると不機嫌になる
▢明るい日中が苦手、蛍光灯やテレビも苦手なことがある
▢大きな音や触覚にも敏感なことがある
通常の良好な腸内細菌のバランスでは、かなりの量のビタミンB群が産生されます。
特に神経伝達物質抑制系の代表である”GABA”はビタミンB群の影響を受けやすいことが明らかになっています。
そのため、ビタミンB群の不足=GABAが不足すると、中途覚醒や悪夢などの睡眠トラブル、不安や興奮、衝動性の更新や音や光などの刺激への敏感さ、ときに痙攣など、発達障害で問題となりやすい症状が起こる。
★ビタミンB群不足タイプに必要な栄養素★
- ビタミンB群
- ナイアシン
- マグネシウム
消化管不良タイプ
- 便通トラブル
▢便秘や下痢が多い
▢小麦製品が好き、よく食べる
▢乳製品が好き、よく飲食する
▢花粉症やアトピーなどアレルギー疾患がある
▢じんましんが多い
▢ジャンクフード、スナック菓子を食べることが多い
発達障害のお子さんは、便秘や下痢などの便通トラブルを併発していることが非常に多いのだそう。
また、おなかの状態が悪いという事は、ビタミンB群が足りていないことを意味し、便の状態が悪化するのに伴い、ビタミンB群不足タイプと同じ「不安・ネガティブ」「不注意」「こだわり・過敏さ」などの症状がひどくなることもある。
★消化管不良タイプに必要な栄養素★
- グルタミン、グリシン(合わない人もいるので注意)
- ビタミンA
- ビタミンD
- 乳酸菌やビフィズス菌などのプロバイオティクスや消化酵素の活用
また、消化管不良タイプの対策として、第一に「グルテン・カゼイン」を避けることが重要となります。
グルテン・カゼインフリーの食事法については、最後の章の中で解説していきます。
ナイアシン不足タイプ
- チック
▢いわゆるチック症状がある
▢吃音(どもり)がある
▢環境の変化やストレスによって、チック、吃音などの症状が強くなる
チックは、ビタミンB群の不足でよく起こるが、とくにナイアシンに依存度が高い。
同時に鉄不足を併発していることも多く、多動や運動神経の未発達とも関連がある。
★ナイアシン不足タイプに必要な栄養素★
- ナイアシン
- ナイアシンアミド
- ビタミンB群
鉄不足タイプ
- 運動神経
▢歩き方がぎこちない
▢マット運動、鉄棒、跳び箱などが苦手
▢ラジオ体操など人と同じ運動ができない
▢よくつまずいて転ぶ
▢運転で車をこすることが多い
▢自転車に乗るのが苦手
▢混雑した道を歩くと人とよくぶつかる - 多動
▢落ち着くがないと言われる
▢長時間のデスクワークや勉強が苦手
▢貧乏ゆすりや、いつも体を揺すったり動かしたりしている
▢ペンや鉛筆を回し続ける
▢体勢を維持できない(机に顔を伏せたり。いつも肘をついたりしている。すぐ横になる。)
★鉄不足タイプに必要な栄養素★
- ヘム鉄
- ビタミンB群
- プロテイン
- アミノ酸
鉄は、ただ摂ればいいのではなく、必要なところに運ばれて必要な形に変換されて利用されるために、たんぱく質とビタミンB群の摂取が大切です。
DHA不足タイプ
- 人間関係・コミュニケーション
▢同世代との人間関係が苦手
▢疎外感などを感じる
▢いじめにあっている
▢口論になることが多い
▢「自分のことをわかってもらえない」と感じることが多い - 学習
▢テストの点数が平均点以下の科目が多い
▢漢字が苦手
▢算数の計算でケアレスミスが多い
▢文章題が苦手
▢黒板の内容をノートに写せない
▢図画工作は独創的で得意
▢音楽は得意 - 言語
▢その場に応じた会話ができない
▢伝えたいことが言葉にできない
▢質問に対して的外れな答えをする
★DHA不足タイプに必要な栄養素★
- DHA
- 亜鉛
- グルタミン、グリシン
- ビタミンD
- プロバイオティクス、プレバイオティクス
自閉症や発達障害には、農薬などの環境ホルモンや重金属などの影響も考えられているため、これらの影響を避けるために、細胞自体の抗酸化力や解毒能力を高めることによって大きな改善が得られる可能性があります。
細胞内の抗酸化や解毒は、おもにグルタオチンという物質が担っています。
グルタオチンが体で機能するメカニズム・効果的な摂り方については、長くなってしまうのでここでは省略しますが、要は、細胞内のグルタオチンが活性することで神経細胞内の環境ホルモンや重金属が十分に解毒されるようになるので、とても重要な物質です。
発達障害がよくなる「5つの生活習慣」
ここまで、発達障害にもさまざまな特性があるということを述べましたが「5つの生活習慣」は、どの特性にも必ず共通しておこなってほしいものです。
私の弟も発達障害を抱えているという話をしましたが、弟にもこの生活習慣を実践してもらったところ、かなり効果がありました!(集中力が増した、気分の変動が落ち着き情緒が安定した、甘いものをあまり欲さなくなった等々)
ちなみに一緒に実践していた母も、頭が働くようになった、疲れにくくなった等、かなり効果を感じられたそうです!
❶糖質コントロール
- 糖新生がうまくいかない発達障害の人にとって早朝と夕方(16時ごろ)は低血糖になるリスクが高い
●その時間帯に、少量の糖質をゆっくり摂る(ジュースは急激に血糖値を上げるため×)
●夜間低血糖を防ぐには、寝る前に少量のナッツやゆで卵の補食もいい
●糖の代謝にはビタミンB群が欠かせないため、食事やサプリメントでビタミンBを補う
- ゼロカロリーの飲み物やチョコレートは逆効果(砂糖を怖がりすぎる必要はない)
●人工甘味料は、甘さは感じるが満足感が得られず過食の原因になることも
●人工甘味料による腸内環境の悪化がさらなる血糖コントロール不良を招く
●脂質もカロリーも含んでいる濃厚なアイスクリームやチョコレートを少量、ゆっくりと味わうほうが気持ちも脳も満足する
- 糖質を減らした分、たんぱく質と脂質を増やす
●糖質を減らした分の代替エネルギー源として重要
●脳を構成するのは主に脂質とたんぱく質であり、成長期ならなおさら欠かせない
●同じ種類のたんぱく質を連続して摂らない(鶏肉、豚肉、牛肉、魚などローテーションで食べる)
●卵は一度に2、3個食べるのはよいが毎日摂り続けない(量より連続性に注意)
単に糖質制限をするのではなく、血糖値を安定させること(食事をしても血糖値がゆるやかに上がり、ゆるやかに下がるようにすること)が大切。
➋グルテンフリー・カゼインフリー
発達障害の食事法についてはさまざまなものがありますが、医学的エビデンスがあるのが「グルテンフリー・カゼインフリー食事法」です。
実際にグルテンフリー・カゼインフリーの食事を実践することで、自閉症スコアが改善した状態が改善した事例がいくつもあります。
(私の弟も、これが一番効果があったようです。2週間、大好物を我慢するのはキツかったようですが、2週間後に大好物の菓子パンを食べると気持ち悪くなったそうな。)
- グルテン・カゼインフリーをおこなう期間は、まずは「2週間」
●完全除去を2週間おこなうと、何かしらの体調の変化に気づきやすい
→2週間完全除去をおこなえば、そのあとはゆるやかな制限でよい
- 避けるべき食べ物
●小麦、小麦が入っている食品全般(小麦や「麦」とつくものすべて)
●パスタ、うどん、ラーメン、そうめん、そば(10割でないもの)などの麺類
●パン、ピザ、マカロニ、お好み焼き、中華まん、ギョウザの皮、シリアル、麩など
●フライや天ぷらなどの衣
●ケーキ、クッキー、ドーナツ、マフィン、パンケーキなどの菓子類
●しょうゆ、カレールーなどの調味料
●ビール、麦焼酎などのアルコール類
●乳製品全般(牛乳、ヨーグルト、チーズ)
「食べるものがなくなってしまう」と思う人もいるだろうが、それだけ普段の食事からグルテン・カゼインを摂取していたということになる。大好物やよく食べているもののなかにこそ、心身の不調の原因が隠れていることが多いため、そういう人にこそグルテン・カゼインフリーを行う価値がある。2週間はつらいが、心身の健康のために是非ともおすすめしたい食事法。
❸腸内環境を整える
- 腸の善玉菌を増やす
●乳酸菌やビフィズス菌などを取り入れる
●食物繊維とラクトフェリンを取り入れる(ラクトフェリンには悪玉菌を減らし善玉菌の増殖を助ける作用がある)
→これらを効率的に摂れるものとしておススメなのが「漬物」
●食事だけではなかなか難しいのでサプリメントで補うのもおススメ
- ビタミンDで腸の粘膜を強化する
●できるだけ肌を露出して直射日光を浴びる(ビタミンDはコレステロールを原料として紫外線を浴びることによって皮膚でつくられる)
●皮膚でつくられるだけでは足りないため積極的に食材から摂取する(魚の内臓に多く含まれる。サンマやイワシ、ししゃも、しらす、煮干しなどがおすすめ)
●サプリメントで補う場合には、血中濃度を測定しながら調節するのがおすすめ(ビタミンDは季節によって血中濃度が変動しやすい)
発達障害、とくに自閉症のお子さんは、便の調子がよくても、腸の粘膜が弱いことが非常に多い。(自閉症のお子さんはビタミンDの血中濃度が低い場合が多く、ビタミンDを経口摂取したところ行動異常が改善されたという報告もある)そのため腸内環境を良くするだけでなく、腸の粘膜を強化することにより改善が期待できる。
❹脳にいい油をとる
脳の構成は脂質が半分以上を占めているということは前述しました。
脂質を効果的に吸収させるためには、体内でコレステロールが十分に合成できなければなりません。
そのため、脂肪分解酵素を含んだ消化酵素を飲みながら、脂質を含んだ食事をするなどの方法がありますが、比較的負担が少なく取り入れられる方法が以下です。
- ココナッツオイルやMCTオイルを取り入れる
●どちらも中鎖脂肪酸であり肝臓ですばやく代謝され効率的にエネルギー補給ができる
●短時間でケトン体に変換され、血糖値の変動があっても影響を受けにくい
●中鎖脂肪酸に含まれるカプリル酸が腸内環境を悪化させる原因となるカンジダ菌を抑える効果がある(発達障害のお子さんの腸にはカンジダ菌が存在することが多い)
●過剰なグルタミン酸の分泌を抑制する(グルタミン酸の過剰分泌は興奮状態やイライラ、多動を引き起こす)
- お子さんの場合、ココナッツバターもおススメ
●ココナッツそのものの果肉からつくられるためココナッツオイルよりも食物繊維が豊富
●取り入れやすく、腹持ちもよい
- EPA・DHAを上手に使い分ける
●オメガ6系の油の摂取を減らす(サラダオイルやマーガリンを使わないだけでも大きな1歩)
●DHAはとにかく脳の機能を上げてくれる。そして発達障害の原因の1つといわれている重金属をデトックスするためにも重要な役割を果たしている
●EPAは抗炎症作用があるため、とること自体は悪いことではないが「脳の機能を上げる」という目的においてはDHAを単品で摂ったほうが効率的
オメガ6系の油は油断すると普段の生活で多量摂取してしまうため、減らすことを意識する。かわりにオメガ3系脂肪酸やココナッツオイルなどの中鎖脂肪酸を食卓に取り入れる。ただし、脳の機能の向上においてはDHA(魚油やサプリ)を単独で摂ることが望ましい。
❺運動と休息
- 筋トレで低血糖を防ぐ
●筋肉の量を増やすと、筋肉が効率よく血糖を取り込んでくれるため、血糖値の上昇を抑えてくれる
→ただし、筋トレはたんぱく質の状態が良くなってから!(発達障害の人たちは総じて糖質過多でたんぱく質が不足していることが多い)
●激しい運動はまったく必要ない。ゆっくり少しずつでいいので、自宅でスクワットくらいの筋トレ習慣をつける
- 食事した直後に15~20分程度歩く
●「食後すぐ」に歩くことでインスリンの節約になり血糖値の上昇を抑える
●なるべく大きく手を振って、ももを上げるように早歩きよすると、より効果的
- 40分作業したら休憩(ビタミンB群をムダ使いさせない)
●休む理由は、ビタミンB群の大量消費を防ぐため。発達障害の人は過度に集中してしまう傾向があるため、普通の人より比べ物にならないくらい消費してしまう
●発達障害の人は集中時間が長くなるほどハイな状態になってしまうことがあるため「40分作業して20分休む」を1セットとするなど習慣づける
●休んでいる間は、作業のことを考えるのはストップする
筋トレと食後早歩きは、食事以外にできる効果的な血糖コントロール法である。また、集中タイムを長引かせることでビタミンB群を大量に消費させてしまうため、適度な休息も大切。ビタミンB群は前述したように発達障害の改善には欠かせない栄養素である反面、ただでさえ消費量がとても多い栄養素であるため、とにかくムダ使いさせないことが重要!
以上が「5つの生活習慣」でした。
簡潔にまとめましたが、本書の中では、ひとつひとつの「メカニズム」や「食べ方」に至るまで詳しく、そして分かりやすく解説されています。
また、多くの発達障害の患者さんの実際の事例も豊富で、大変参考になります。
患者さんの症状、元の血液検査のデータから、治療経過、どの時期にどのような変化が見られたかなど、詳細でイメージしやすいです。
もっと詳しく知りたいという方は、是非本書を手に取って確かめてみて下さい。
まとめ
オーソモレキュラー療法は、しっかりとエビデンスがある栄養医学に基づいており、信頼できると同時に、現代の食文化の背景にも大変マッチしているなと感じました。(不足しがちな栄養素をサプリメントで補うなど)
最後に、本書を読んでいて心に響いた著者の言葉をご紹介します。
「食事を変えれば体が変わり、心も変わる。それは発達障害を改善するばかりか、それまで欠点といわれていたものを、すばらしい才能に変えてくれるものだと思っている。」
もともと持っている特性がマイナスじゃなくプラスに働いて、その力を発揮できるようになることで、発達障害の方の「生きづらさ」が少しでも楽になることを願ってやみません。
そして、そのための習慣が、家庭で、日常生活で、無理なくできる範囲のことならば、やらない手はないと思います。
栄養・食事に関してはもちろん、いろいろなことを考えさせられ、深い学びを得ることができました。
かなり内容が充実しているため、今発達障害で困った症状のある方、そのご家族には、自信をもっておすすめできる1冊です。